Finovate Fall デモ企業まとめ
更新日:2020年9月25日
Finovateはご存知の方も多いと思うが、毎年世界各地で行われるフィンテックのベンチャー企業の登竜門と言うべきイベントで、恒例の秋のFinovateイベントは通常60社以上のフィンテック(アーリーステージが多い)がデモを行う。
今年の秋のイベントは先週であったが、コロナ対策のためオンラインイベントだった。そこでほとんどのデモ企業を一応見てみて、特に、注目するべきだと思うものをいくつか選んでみた。
ざっと分野別に分けると、金融デジタル化のコア・セクター(Yodlee、Q2、Finzlyなど)のほかに、今年特に目立ったのは、動画を含むコミュニケーション・ツール。もちろんコロナ対策で対面コミュニケーションからリモートに移行している影響が多いが、もしコロナがなくても動画による説得・教育などの効果は大きいため、順次動画を含むコミュニケーションは増加傾向にあると思う。
動画を含むコミュニケーション分野では別のブログ記事に書いたGlance、ウェブ画面とチャット、ボットそれから人間の担当者との動画コミニケーションを組み合わせたGlia、それからデモ企業ではなくてスポンサーのLifesize、などが目についた(Glia、Lifesize、cinchy、monitは以下の記事参照)。
Lifesizeは2003年設立、比較的レートステージの技術ベンダーで現在までに$100M(約100億円)近くのベンチャー資金を調達、今回のFinovateではデモ企業ではなくスポンサーであった。
クラウドベースの動画コミュニケーションシステムのベンダーだが、今回のコロナウィルスにより(Zoom等と同じく)急速にニーズが高まっていると思われる。同社によると、「2020年は企業が顧客とのコミニケーションチャンネルとして動画を本格的に取り入れることが進む年となる」とのこと。
調査によれば、企業の84%が今後12ヶ月以内に顧客コミニケーションの主要な方法として取り入れる予定としている、とのことであった。
しかし、動画はまだ、コールセンターの1部としてインテグレートされているとは言えず、まだまだ、金融においての動画コミュニケーションは始まったばかりと言えそうである。
Lifesizeは金融業界だけが対象のベンダーではないが、今回のセッションでは最新のクラウドセンター・ソリューションにおけるビデオ他の高度なコラボレーションツールの重要性、金融機関にとってのユースケース等についての説明があった。
同社のクラウド・コンタクト・センター・ソフトウェアはCxEngageと呼ばれるが、その動画ツールであるCxEngage Videoは取引や証券会社・FPのアドバイスのように信頼・セキュリティの必要な、今までであれば対面でのコミュニケーションをオンライン化することに使われる。
コロナ下のリモート作業ではZoomなどの一般的なビデオ会議ツールが普及しているが、金融の商談・取引などではより高度なセキュリティが欠かせない。
Lifesizeではすべてのビデオ対話はエンドツーエンド暗号化されており、RBC、Square、エール大学をはじめとするミッション・クリティカルな企業に採用されているとのことであった。
Gliaは昨年春の風のベートでも見て、注目していたのだが、チャット、音声、動画、コブラウジング、AIを活用して金融機関と顧客をつなぐデジタル顧客サービスプラットフォーム。
金融機関のウェブサイトに来た顧客候補の興味のある分野に応じて様々なボットによる対応、また、必要に応じて人間の担当者が対応するなど、デジタルとアナログにまたがって複数のチャネルでの顧客とのコミニケーションをはかれるシステムとなっている。
顧客のコンピューター上のカーソルの動き、数字のインプットなどに応じて、画面に表示されるアドバイスも変化する(パーソナライゼーション)。
パーソナライズイションは顧客側だけではなく、金融機関側では、その顧客の興味の対象と規模によって的確な部署の担当者を配置できる。
顧客が特定の商品の説明の上にカーソルを動かすとすぐに、右下に「詳しくお知りになりたければすぐにエージェントとチャットできます」というメッセージが出る。
以下の画面では、保険商品を見ていた顧客で且つ対象金額が大きいため、保険商品の重要顧客担当ボットにつながることになる。
上記画面の「VIP-Insurance(保険上級顧客担当者」というのは実は「ボット」なのだが、顧客側が不動産の見込み価格をより高額に変えると下の画面のように「人間の担当者」の選択画面が表示される。
今回取り上げた「コミュニケーション」分野では唯一のマルチチャネル・コミュニケーションシステムであり、フィンテック分野全体でも珍しいと思います。但し、昨年インタビューしたところではまだ今後2~3年はアジア方面進出の予定は無いとのことでした。
cinchy(シンプルという意味)はテクノロジー企業・大手企業のテクノロジー導入のためのデータコラボレーションプラットフォーム。従来のアプローチに比べて、データの統合の時間をなくし、新機能・アプリケーションの追加の際に統合作業に使っていた時間とコストを大幅に省くことが出来る。
同社は「データファブリック」と呼ぶアーキテクチャを使っているが、これはデータ統合の作業に比べて半分ほどの時間を節約できるという。現在、大手企業の新たなツールの導入に関しては、統合作業にIT予算の約半分が費やされ手いるため、この部分を削減できる費用対効果(及びスピード)は大きい。
データファブリックはリリースして約2年だが、金融分野においてはRBC、TD Bank他の大手銀行に採用されている。また現在まで採用した会社がすべて継続利用しているそうである。
上の図で脳の中のニューロンのつながりのように見えるのがcinchyのデータセット。この中に顧客、従業員、時間軸、目標値など全てのデータセットがマッピングされている。
ちょうど、Googleのストリートビューのマッピングのようにこのデータを掘り下げていって、必要であれば1番下の詳しいデータまでたどり着くことができる。
Cinchyは、昨年(2019年)ニューヨークのFinovateでBest-of-showに選ばれ、SFで開催されたTechCrunch Disruptではトップ賞を獲得。Bank Directorでは「業務改善のためのベストソリューション」に選ばれ、Gartnerでは2020年の「データ管理におけるクールベンダー」特集にのっている。
Monitは中小企業の経営者のためにキャッシュフロー予測や財務の最適化のためのプラットフォームで、とても見やすいモバイルベースのアプリですが、主に銀行から中小顧客である中小企業向けに無料で今のところ提供されています。
2019年設立の非常にアーリーステージのベンチャーですが、今回のFinovateではBest of Show賞を獲得したデモの1つ。
Monitは中小企業の会計ソフト(米国ではQuickBooksが多い)にプラグインで連携し、そこから取得できる情報に基づいて近い将来のキャッシュフローの予測、及び必要なアクション(支払い遅延の顧客に催促のメールを送る)などを行う。
キャッシュフロー予測画面
会計ソフトが入っていれば良いのではと思うかもしれないが、会計情報は過去の情報であって、例えば1ヵ月後に運転資金が枯渇するかもしれない、などの先の情報は出てこない。
(QuickBooksにも調べればそんな機能はありそうな気がしますが、一般に中小企業のオーナー、例えばパン屋さんとか大工さんとかですね、は財務管理や会計は基本的に苦手な人が多い。クイックブックスから出てきた細かいレポートを見てもあまり読む気にならない、ということなのでしょう。)
ノーティフィケーション画面
比べて、こちらのスマホの画面に見るようなグラフや、簡潔なノーティフィケーションで必要な情報、アクションを取れる情報だけを見せてくれる。そんな利点があるということだ。
金融機関側(銀行・信用金庫など)側にとっての利点は2つある。
まず顧客である中小企業を保持できること。1つの調査によれば米国では中小企業オーナーの75%が、こういった将来予測やサービスをもたらしてくれるツールを提供する銀行と取引したいとしている。逆に金融機関側はこういったことに乗り遅れると、顧客を逃すかもしれない。
さらに、すでに取引がある顧客であっても、売上げ機会を逃さずに済む。例えば顧客が何か設備投資、大きな購入などを考えており資金需要があるときに、それがわかれば銀行側でもすぐに与信枠を見直しなどの行動をとることができる。そういった情報に乗り遅れると既存顧客でも、セールスの機会を逃すか、たの金融機関・短期金融などに取られるかも知れない。
少し前にフィンテックコンサルタントであるBS11の中小企業向け金融機能を分析したレポートを見たが、米国の大手銀行でも中小企業の細かいニーズにはほとんど応えられておらず、そこにSquare、Shopifyなどのテク・ベンチャー企業が進出しているとあった。
Monitのようなツールは銀行側がそれを少しでも挽回するための武器となるかもしれない。
【YouTube】GleaとGlanceについての動画もアップしました。
Comments