Googleをはじめとするビッグテックのフィンテック進出
更新日:2020年8月14日
「すべてのテクノロジー企業は金融業となる」のか?
はじめに
「金融」と「テクノロジー」が融合した「フィンテック」は、米国では約10年前、リーマン・ショック後あたりから現世代のフィンテック・ベンチャーが育ちはじめ、日本では数年後、2015年ぐらいから一般のビジネスパーソンにも知られる存在となっています。
ただ、2~3年前まではこういったベンチャーの金融業界全体へのシェア・影響はまだそれほど大きくなく、既存の金融機関が抱える顧客リストの大きさに比べてフィンテックが食い込むことが出来たシェアはごく一部でした。
それがこの1年あまり、Apple、Google、Amazonといった超巨大テクノロジー企業が、主に金融機関との提携を通じて金融サービスに参入する事例が相次ぎ、これらの提携が成功すると金融セクターに、今までとは桁違いの新規プレイヤー連合ができあがり、業界構造が今までのフィンテックによる影響よりもずっと大きく変わる可能性があります。
さらに、近い将来的には「すべてのテクノロジー企業は金融業となる」という業界の見方もあります。
今回は、そういった「テクノロジー巨人」の筆頭であるグーグルの金融サービス戦略を中心に、今後の参考としての情報をまとめて見ました。
グーグルの金融サービス戦略
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当座預金口座
Googleが銀行のように当座預金口座を提供する、というニュースは当初2019年11月に、ウォールストリートジャーナルによって次のように報道されています。
Googleの預金口座プロジェクトはコードネーム「キャッシュ(Cache)」と名付けられ、シティーバンクやスタンフォード大学の信用組合であるスタンフォードクレジットユニオンとの提携により、2020年に運用が開始される予定。
ウォールストリートジャーナルによるとGoogleはまもなく、消費者向けに預金口座を提供しシリコンバレーのビックテック企業としては最初の金融事業への進出になるだろう、とのことでした。
現時点で詳細については明らかになっていないのですが、Google Payがシティバンク・スタンフォード信用組合の口座の決済に使われ、預金口座の管理を始めとする銀行業のライセンスが必要とされる金融業務は銀行側で行う、と推定されています。(現時点でGoogleの銀行ライセンス申請などは無いようです。)
デビットカード
上記の口座提供に伴い、Googleはまた、2020年4月に、リアル及びバーチャルのデビットカードを開発中と伝えられています。GoogleのデビットカードはGoogleアプリに連動、購入履歴のモニター、残高のチェック、および不正があったときに口座をロックするなどの機能を備える予定。
TechCrunchの「リーク」に基づく記事によれば、カードの機能はAppleのカードに対抗できるもの、としています。先に発表されたAppleと投資銀行ゴールドマン・サックスの提携、またAmazonと同じくゴールドマン・サックスによる中小企業マーチャント向け融資サービスと重ねて、究極的には「すべてのテクノロジー企業は、やがては金融サービス企業として参入する」という見方もあります。
上記の提携により、Googleは「銀行業」そのもの(融資による金利の獲得など)はおこなわないと推測されるので、それならば同社の利益はどこかというのが気になるところですが、現在「デビットカード」からの取引履歴がその顧客の購買傾向、経済状態、その他の顧客行動に関するデータの取得の上で非常に有効な手段とされています。
顧客の個人データの売買等はしなくても、一般の経済情報が1ヶ月ほどのラグがあるところ、まさにリアルタイムで景気のデータ、またその顧客への金融・その他の商品の適切なオファーが出来ることで極めて「利用価値のある」データの取得が可能となるわけです。
コロナ下の中小企業救済融資プログラム用クラウド・ソリューション
コロナウィルスが米国経済に深刻な影響を及ぼし、政府による中小企業救済融資プログラム(Paycheck Protection Program, PPP)が進んだ2020年5月には、Googleクラウド上で「PPP AI Lending Solution」(AIを採用したPPP融資ソリューション)を提供。
これは既存の金融機関の融資システムのスピードでは、救済ローンへの融資申し込みの大量増加で対応が追いつかず、GoogleがAIを使った融資承認システムを開発して組み込み、対応を加速・自動化したもの。
Googleクラウドの金融機関での採用
2020年3月にはGoogleクラウドは英国の大手金融サービスグループであるロイズ・バンキング・グループと5年間の契約を締結。これはロイズの30億ポンド(約3,900億円)の予算をつぎ込んだ金融DXプロジェクトの一部と言われます。
金融機関との競合かベンダーか
こういったGoogleの矢継ぎ早な金融関連への進出を受けて、同社が「金融機関との競合企業」になると危惧する向きもあります。それに対して米フォーブスの著名な金融コラムニストであるロン・シェルビン氏は「Googleは銀行になろうとしているのではなく、フィンテックの大手ベンダーになることを目指している」と明言しています。
Googleの「金融ブランド」はミレニアル世代に信頼される
では「金融技術ベンダー」としてのGoogleの魅力は、金融機関にとってはどんなところにあるのでしょう?多くの銀行は、Googleの知名度が預金口座やデビットカードの利用率を高める効果がある、と考えています。
米国の金融コンサルティング企業、コーナーストーン・アドバイザーズが実施した消費者調査では、ミレニアル世代(40才以下)の4分の1 が Google のデビットカードを利用する可能性が非常に高く、さらに30%が、使う可能性がやや高いと答えています。
テクノロジー・アナリティクスの知識
さらに先端テクノロジー企業であるGoogleの技術知識により、金融機関は顧客の行動をより正確に分析、顧客の希望に添うような商品を提供できる可能性もあります。
チャットボットや機械学習などのAI技術は話題にはなっていますが、米国でも実際に導入している金融機関はごく少数です(米国は中小金融機関の数が多く、「銀行」だけでも約5,000、それに約7,000の信用組合があります。話題のチャットボットなどを導入しているのはそのうちごく一部の大手がほとんど)。
Cornerstone Advisorsが調査した銀行のうち、チャットボットを導入しているのはわずか4%で、機械学習ツールをすでに利用しているのはわずか8%です。一方、ほぼ5行に1行、20%が機械学習を導入する意思があり、自社開発はほぼないと思われるので進んだ技術を持つ金融ベンダーが台頭する余地が大きいと思われます。
データへのアクセス、データの活用
さらにGoogleの持つ膨大なデータへのアクセスにより、
• 従来の金融機関よりも正確なリスク管理
• 広告・検索による消費者嗜好の把握
• スマホ・アプリを介したユーザーとの頻繁なつながり
などが金融サービスに極めてプラスになるとも考えられます。
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今回は主にグーグルの金融サービス戦略を見てみましたが、他にアップル・アマゾンなどの「ビッグテック」も金融サービスへの参入をしています。
ここから見えてくるのは
1) これまでのフィンテック・ベンチャーとは規模が違う金融サービス再編の可能性
2) 金融の「ブランド」は金融機関か、テクノロジー企業が取るのか
3) 金融機関にとってはどういった金融機能を自社で集中し、どれを提携に
よって効率的に提供するのか
等を考慮しながらこういった動きをウォッチしていく必要があるということでしょう。
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